二段ベッドの上で、颯が寝返りを打つ音がした。
凪は下の段で、天井の板を見ていた。木目の位置は、子どもの頃から動かない。颯が上、凪が下。生まれた順で決まって、十八年変わらなかった。ほんの数分、颯のほうが先に生まれた。それだけの差だった。
「起きてる?」
上から声がした。凪は返事をしなかった。返事をしないのが返事だと、颯にはわかる。双子とはそういうものだった。
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夕方、進路指導室で、紙を二枚もらった。
学校のあれが出す紙だった。成績と、面談で答えたたくさんの質問から、「向いている道」というのを一枚にまとめて印字してくる。同じ教室で、同じ先生に習い、同じ晩ごはんを食べてきた二人なのに、紙の中身は別々だった。
颯のには、工学部と書いてあった。遠い街の大学の名前が、いくつか並んでいる。凪のには、調理の専門学校と書いてあった。こちらも、県をまたいだ先の学校だった。
紙を渡すとき、先生は「よく向き合った結果だと思う」と言った。凪はうなずいた。颯もうなずいた。廊下に出てから、どちらも紙を折りたたんで、鞄の同じ側のポケットに入れた。そういう仕草だけ、まだそろっていた。
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昔から、二人は何でも半分こした。
母は、おやつを一つしか買ってこない人だった。焼き芋も、あんぱんも、みかんも、いつも一つ。「二人で分けなさい」と言って台所に戻っていく。颯と凪は、どっちが大きいかで毎回もめた。定規をあてたこともある。結局はじゃんけんで決めて、勝ったほうが先に選んだ。
勝っても、負けても、味は同じだった。それがわかってからは、もめるのも、じゃんけんも、ただの儀式のようになった。半分こするために、母は一つしか買わなかったのかもしれない。凪はいまになって、そう思う。
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その晩、颯が階段を降りてこなかった。
凪は台所で、湯を沸かしていた。専門学校のパンフレットが、テーブルの端に置いてある。調理の、と口に出すと、まだ他人ごとのように聞こえた。包丁の握り方から習うのだと、そこには書いてあった。
凪は上着を羽織って、外に出た。角のコンビニまで、夜の道を歩く。金木犀のにおいがした。去年はしなかった気がする。それとも、気づかなかっただけか。
石焼き芋、と書かれたのぼりが、コンビニの前で揺れていた。この時期だけの、車の屋台だった。凪は一つ買った。ほかほかと、紙の袋が手のひらを温めた。
*
部屋に戻ると、颯が下の段に腰かけていた。
凪はコンビニの袋から芋を出し、テーブルに置いた。それから、母の引き出しから包丁を借りてきて、まな板の上で、芋を縦に切った。
まっすぐには切れなかった。片方が、明らかに大きい。
凪は、大きいほうを颯の前に置いた。じゃんけんもせずに。颯が顔を上げた。
「なんで」
「手が、勝手に」
嘘だった。凪は、わざと大きいほうを颯に寄せた。理由は、自分でもうまく言えなかった。先に生まれたやつに、とか、遠くへ行くやつに、とか、いくつか浮かんだけれど、どれも口には出さなかった。
颯は、大きいほうの芋を手に取った。半分に割れた断面から、湯気が上がっている。しばらく、それを見ていた。
「来年の今ごろ、俺ら、別々のとこで芋食ってんのかな」
颯が言った。凪は、小さいほうの芋をかじった。あまかった。勝っても負けても味は同じだと、昔わかったはずなのに、今日のは、少しだけ違う気がした。
「食ってるよ、たぶん」
凪はそう返した。それ以上は言わなかった。窓の外で、金木犀のにおいがまだしていた。二人は、湯気の上がる芋を、それぞれの手で持っていた。半分こした、はじめての夜だった。
*
颯が芋を食べ終えて、上の段に上がっていく音がした。
凪は電気を消して、下の段に横になった。天井の木目が、暗がりでほとんど見えない。上で、颯が寝返りを打った。いつもの音だった。
春になれば、この音は聞こえなくなる。上の段は、空になる。凪は、そのことを思った。思っただけで、口には出さなかった。
紙には、別々の道が書いてあった。けれど、あの芋を半分にしたのは、機械ではなかった。凪は、まだ少し温かい手のひらを、そっと閉じたり開いたりした。
次にこの手で何かを半分にするとき、隣にいるのは、誰だろう。