平日の昼下がりだった。
通りの店は、ほとんどが無人になっていた。ガラス越しに商品だけが並び、客が手に取ると天井のカメラが値を読む。会計の音もしない。だれもいないのに、棚だけがいつもきれいに整っている。
その一角に、ひとつだけ灯りのついた店があった。色のあせたのれん。前に置かれた木の棚に、駄菓子の箱がならんでいる。少年は、その前で足を止めた。ランドセルは、背負っていない。
*
「今日も来たね」
奥から声がした。腰の曲がった婆さんが、丸椅子から立ち上がる。少年はうなずくでもなく、箱の中を見た。飴玉が、ばらで入っている。
婆さんは秤を引き寄せた。金属の皿に飴を移し、指でつまんでは足していく。針がゆれて、目盛りの手前で止まりかけ、それから、ほんの少し行き過ぎたところで落ち着いた。
「はい、五十円」
つり銭を、しわの多い手が渡す。少年は皿の飴を袋にあける。数えた。八個あった。
婆さんは、少年がなぜ昼間にここにいるのか、聞かなかった。
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通りの先の無人店では、飴は一個ずつ袋に入って値札がついている。手に取れば、ちょうどの数、ちょうどの金額。レシートが出て、また静かになる。
ここの秤は、いつも少しだけ多い。少年は、それに気づいていた。何度来ても、針は目盛りを越えたところで止まる。数えると、いつも一つか二つ、多かった。
一度だけ、聞いてみた。
「なんで、多いの」
婆さんは、秤の皿を布でふいた。
「昔からこうなんだよ。目が、もう目盛りをよく見ないからね」
少年は、婆さんの手元を見た。皿に飴をのせる指は、目盛りではなく、手のひらの重さで量っているようだった。
*
学校では、なんでも数えられた。
朝、席につくと、画面が今日のやることを出す。どこでつまずいたか、何分かかったか、線が伸びたり止まったりする。答えは、たいてい正しかった。正しかったから、少年は、なにも言えなくなった。
うまく言えないのだけれど、数えられるものばかりの場所に、いる気がしなかった。それで、足が向かなくなった。
この店では、だれも少年を数えなかった。婆さんは、来れば「今日も来たね」と言う。来なければ、たぶん、ただ椅子に座っている。それだけだった。
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夏の終わりの、雨の日だった。
のれんが、しめっていた。婆さんは、いつもより奥の椅子にいて、立ち上がるのに時間がかかった。少年は、秤を自分のほうへ引き寄せた。皿に、飴をのせてみた。
針が、目盛りの手前でゆれた。少年は、もう一つ足した。針が、目盛りを越えた。手のひらに、飴の重さがのっていた。
「上手だね」
婆さんが、うしろで笑った。少年は、越えたぶんの一つを、婆さんの湯のみのそばに置いた。おまけ、と小さく言った。婆さんは、それを見て、少し黙った。
*
九月のあたまの朝、少年は、ランドセルを背負っていた。
学校へ行く前に、店の前を通った。まだのれんは出ていない。それでも灯りはついていて、婆さんが箱をならべていた。
少年は、袋から飴を一つ、木の棚のはしに置いた。
婆さんが顔を上げる前に、通りへ出た。無人の店のガラスが、朝の光を返していた。カメラは、棚に増えた一個を、たぶん数えない。
坂の上で、少年は一度だけふり返った。灯りは、まだそこにあった。行ってみて、だめだったら、また寄ればいい。
たぶん。