AI活用の教科書

物語2026年7月18日4 分で読了執筆: 翔平

夏休み、祖父の畑に泊まりに来た子が、乾いた空を見上げる。スマホは晴れだと言い、祖父は明日は降ると言う。低く飛ぶ燕と、雨のにおいの朝の話。

読み物近未来家族

畑の土は白く乾いていた。じいちゃんは腰をかがめて、指先で土をひとつまみすくう。それを鼻のあたりまで持っていって、しばらく黙っていた。

「明日は、降るな」

つばさは麦わら帽子のつばを持ち上げて、空を見上げた。雲はどこにもない。夕方の空は遠くまで青くて、山ぎわのあたりだけが、うすい橙に染まりはじめている。

「スマホは晴れって言ってたよ」

ポケットから出した画面には、明日のところに小さな太陽の絵が並んでいる。雨の傘の絵は、どこにもなかった。降水確率という文字の横に、ゼロ、と出ている。

「そうか」

じいちゃんはそれ以上、何も言わなかった。畝のあいだをゆっくり歩いて、なすの葉を裏返して見ている。つばさは画面の太陽と、じいちゃんの背中を見くらべた。

夕飯は、畑で採れたきゅうりと、みそをつけて食べる茄子だった。

「じいちゃんはさ」つばさは箸を止めて言った。「なんで明日降るって分かるの」

じいちゃんは湯のみを置いた。窓の外は、もう暗い。虫の声がしている。

「燕が、低いとこ飛んでたろう。夕方」

そういえば、と思う。畑の上を、黒い鳥が地面すれすれに何度も横切っていた。速くて、つばさには追えなかった。

「雨が近いと、虫が低いとこに下りてくる。羽が湿るからな。その虫を追って、燕も低く飛ぶ」

「ふうん」

「あとは、膝だ」じいちゃんは片方の膝を、手のひらでさすった。「降る前の日は、ここが、こう、重くなる」

つばさは自分の膝を見た。何も感じない。ただの膝だった。

「そういうの、スマホには出ないの」

「出るわけがない。わしの膝の話だ」

じいちゃんは笑った。皺の奥で、目が細くなる。つばさも、なんだかおかしくなって笑った。

朝、雨の音で目がさめた。

雨戸の隙間が白い。ぱらぱら、という音が、だんだん、ざあ、に変わっていく。つばさは布団から起きて、縁側の戸を少し開けた。

雨だった。畑の土が、色を変えている。白かった土が、こげ茶色に濡れて、つやを持ちはじめていた。乾いた土に雨が落ちるときの、あのにおいがした。むっとする、土くさい、でも嫌じゃないにおい。

じいちゃんは、もう起きていた。縁側に座って、ただ雨を見ている。

「降ったね」

「降ったな」

つばさはスマホを探して、枕元まで戻った。天気のところを開く。太陽の絵は、いつのまにか傘の絵に変わっていた。降水確率のところに、大きな数字が出ている。

「スマホも、降るって言ってる。今は」

「今はな」

じいちゃんは可笑しそうに言った。責める調子はない。

「機械もたいてい当たる。よう当たる。ただ、今日はわしの膝のほうが、半日ばかり早かった。それだけの話だ」

つばさは、じいちゃんの隣に座った。膝を、そっと自分の手でさすってみる。やっぱり何も分からない。重くも、軽くもない。ただ、朝の畑を見ていた。

雨は昼前にやんだ。

土はたっぷり水を吸って、黒くなっていた。じいちゃんは長靴をはいて畑に出た。つばさもあとをついていく。茄子の葉から、水のしずくが落ちる。にんじんの葉が、朝より青くなった気がした。

畑の上を、燕が飛んでいた。

きのうより、ずっと高いところを飛んでいる。青い空を、すいすいと横切っていく。地面すれすれではなく、山の上のほうまで、大きく円を描いている。

「じいちゃん」つばさは空を指さした。「今日は、高いよ」

じいちゃんは手をかざして、空を見た。

「そうだな。高い」

それだけだった。二人はしばらく、飛ぶのを見ていた。つばさは、来年もここへ来ようと思った。次に燕が低く飛ぶ夕方を、今度は自分で見つけられるだろうか。膝はまだ、何も教えてくれない。

高いところで、燕が一羽、ひるがえった。

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